やたらに、ゆとり。

しれっと徒然なるままに書く人。

読書感想文⑦ 花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』

 

すきな歌があります。

 

クリープハイプ「陽」。

1,2番のサビの歌詞が、

 

今日はアタリ 今日はハズレ
そんな毎日でも
明日も進んでいかなきゃいけないから
大好きになる 大好きになる
今を大好きになる
催眠術でもいいからかけてよ
明日も進んでいかなきゃいけないから

 

 

となっています。

 

運試しのような、おみくじのような、危なっかしい今日が続くなか、それでも明日に向かって進まなければならない。

進んでいくためには、何が必要か。

勇気? 自信?

「今を大好きになる催眠術」が必要、ではなく「でもいいから」。

不安定な毎日を途切れさせないために、不安定で胡散臭い催眠術とやらにしかすがれない自分の不甲斐なさが一言一句に滲み出た、そんな歌詞だと私は認識しています。

 

ここまで一貫して不甲斐なさを感じさせるのは、容易なことではないなと。

不甲斐なさって、隠したいもんじゃないですか。

さらけ出そうとしても、ことばを媒介にして聞き手に伝えるとなると、100%すべてさらけ出せたのか、即答は難しいと思います。

 

この不甲斐なさに、こんなに不甲斐ないのは私だけじゃないのだと安堵、共感したのが、好きになった理由①。

 

1,2番の歌詞は全く同じであるのに、大サビで歌詞がさりげなく、しかし、大きく変わります。

 

 

今日はハズレ 今日もハズレ
そんな毎日でも
明日も進んでいかなきゃいけないのか
大好きになる 大好きになる
今を大好きになる
催眠術なんてもう解いてよ

大好きになる 大好きになる
今を大好きになる
無理に変わらなくていいから
代わりなんかどこにもないから
もしかしたら明日辺り そんな平日

 

 

 

 

アタリなんて出る気配など少しもない日々でも、やっぱり明日も進んで行かなくてはならない。

いままで、ありもしない催眠術にすがっていたが、そんなもの、やはり胡散臭い。

「もう解いてよ」と、誰かに頼む口調にまだ虫の良さが滲みます。

いやでも、確実に、明日に向かって自力で進もうとしています。

 

「無理に変わらなくていいから」

「代わりなんてどこにもないから」

それぞれ主となることばが省かれています。

何が、無理に変わらなくていいのか。

何の、代わりなんてどこにもないのか。

それはこの歌を聴いた人次第、心理状態次第ではないかと思います。(見解説明が面倒になったわけではない)

でもやはり、

(私は)無理に変わらなくていい。

(私の)代わりなんてどこにもない。

と解釈する方が多いのではないでしょうか。そう思います。

 

無理に変わらなくていいから、と許しつつ、代わりなんてどこにもないから、と変わる代わりはない、自分次第だと叱咤する。

 

この歌詞書いたやつどうせ悩んだことないやろ、とひねくれてしまう無駄に明るい軽率な応援ソングより、よっぽど力がふつふつしてきます。(理由②)

 

 

 

 

性格が悪いですね。

クリープハイプ「陽」、すきです。

 

 

 

 

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花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』。

 

これまた、タイトルで全部言っちゃってる系書籍ですね。

 

しかしながら、同じようなタイトル『超短編小説 意味がわかるとゾクゾクする 54字の物語』とは似て似つかないのです。

なぜなのか!

ずばり、『54字〜』は削ぎ落として削ぎ落として、最小公約数まで持っていった結果のタイトルですが、

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』は、タイトルのままが、もうすべてです。

そんな本です。

 

 

 

以上。

 

 

 

というわけにはいきません!

 

 

 

 

 

 

夫に別れを告げ、家出。そして急転直下、宿のない生活を送ることとなった書店員の筆者、花田菜々子。

仕事もなんとなくうまく行かない、そんな毎日で、彼女の願うは、

 

もっと知らない世界を知りたい。

広い世界に出て、新しい自分になって、元気になりたい。

 

 

でした。

 

そうして、ふと思い立って登録したのが、出会い系サイトだったのです。

 

さて。

いざ出会うためには、登録者の目につかなければならない。

 

何か、アピールポイント……

 

と、プロフィール欄だけで個性を発揮するため、彼女が書いたひとこと。

 

 

 

 

今のあなたにぴったりな本を一冊選んでおすすめさせていただきます。

 

 

 

 

この、プロフィール欄のひとことから、物語は進んでいきます。

 

章ごとにひとりずつ、出会いから本の紹介まで、ユーモアありセンスありありな文章で描かれます。

 

読み始めは、

 

 

なんや、単調な本やな。

 

 

 

と、正直思いました。

もし、これから読む方もそう思われるかもしれません。

しかしそこで、読むのを絶対に辞めないでいただきたいです。

 

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』は、ただの本紹介実録私小説ではありません。

作者、花田さんの本に対する姿勢、人に対する姿勢から、何か大切なことが心に沁みる、そんな一冊です。

 

 

タイトルが仰々しいので買いにくい、と思いますが、このご時世ネットショッピングという便利なシステムがございます。

億劫になられずに、ぜひ。

 

 

 

 

皆さんの明日がアタリであることを。