読書感想文⑯ 原田マハ『キネマの神様』
原田マハ『キネマの神様』。
散々余韻に浸りました。
はあ。
まだ、浸り足りないみたいです。
よし。
書きます。
暗闇の中にエンドロールが流れている。
ごく静かな、吐息のようなピアノの調べ。真っ黒な画面に、遠くで瞬く星さながらに白い文字が現れては消えていく。
観るたび思う。映画は旅なのだと。
という冒頭。
私自身、映画にはまったく所縁がありません。
これを観てこそ育つ!
という二大巨塔のジブリ、ディズニー。
どちらも観ずに育ちました。
トトロを初めて観たのは、高校生のころ。
ディズニープリンセスの類を初めて観たのも、高校生。
ライオンキングを初めて観たのは、大学生。
風の谷のナウシカを初めて観たのは、2019年に入って初めての金曜ロードショーで。
何を観て育ったのか、私はもっぱら、おジャ魔女どれみでしたね。
あぶねえ、話、脱線しそう。
『キネマの神様』はタイトルの通り、映画が物語の軸となっています。
読了後のボケ丸出しの感想は、
私も、映画好きならよかった~~
アホすぎて申し訳ない。
見事な追体験の結果です。
それほど、『キネマの神様』に引き込まれたということです。
この物語の登場人物は皆、映画に魅了され、映画にすべてを捧げる、正真正銘の「映画好き」。
好きなものに、正真正銘あるいはミーハー、というボーダーを引くのは実にナンセンスだと思うのですが、このひとたちこそ「正真正銘」と、取り立ててしまうほどです。
映画をこよなく愛する39歳独身女性、歩は都市型のシネマを建設する企画の舵をつかさどる、いわゆるキャリアウーマン。
ひょんなことから、突然会社を辞めることになった歩。
父(同じく映画をこよなく愛する、愛称ゴウちゃん)が倒れ、多額の借金が発覚。
ギャンブル依存症の父を、どう更生させるべきか。
多額の借金を、絶賛無職の歩がどう工面するべきか。
無職の歩は、倒れた父の職であるマンションの管理人を仮に継ぐことになる。
ちゃぶ台1つと、インチの小さいテレビ1つ。多くのDVD。
狭い管理室で、歩はある1冊のノートを見つける。
それは、父の書いた、管理がてら観ていたのだろう、映画の感想だった。
偶然か必然か?
はたまた。
キネマの神様、とやらがもたらしたご加護か?
たかだか映画で、父は更生するのか。家族は救われるのか。奇跡は起こるのか。
魅力の一つが、
一人称「小生」のクセが強い、ゴウちゃんの書く文章。
これが、もう。
こういうの、書きたかった! くそう!
と思ってしまいました。
さらにもう一つ挙げるなら。
原田マハさん、どれだけ働く人を魅力的に描けば気がすむのですか。
喜び、妬み、期待、嫉み、悲しみ、確信、怒り、信念。
働く人の「喜怒哀楽」が、ぎゅっと詰まっています。
働く歳になってこの本に出会えたことが、心底うれしい。
すべての映画好きと本好き、書く人、働く人に、原田マハ『キネマの神様』を捧げます。
まだ浸りきれていないので、しばらくとっぷりさせてもらいます。
じわじわ加筆修正加えながら。
『キネマの神様』読書感想文、未完。