読書感想文⑰ 森絵都『風に舞いあがるビニールシート』
心が震えるツボというものは、人それぞれだなあ、と。
ブログを振り返ってみました。
読書感想文は、主に、以前読んだものから選択。
そのほうが作品に対する理解が深いような気がするし、
前に読んだものでも熱く語りたいのは、その分、愛が強いのかなと。
そんなふうに、あっつあつゾッコン愛をだらだら打っていくこのブログですが、例外もあります。
まれに、本当にまれに、読了後興奮冷めやらぬまま。
そんなときはもう、深い理解、なんて胡散臭いこと言ってられません。
やべえ、良い、やば、めっちゃ良い、やっべえ書きたい、書かねば!
語彙はとうに去り、閑散とした脳をフル稼働させ、フリック入力に勤しむ。
どの本があてはまるのかは、ブログを読み返していただければ、なんとなくわかるはず。
係り受けの違和感、助詞の欠如、誤用、などなど。
粗だらけです。
このことば、使い方間違ってるくない?
と、いうことがあっても、
あーね、「興奮冷めやらぬまま」のやつだ。
と、あったかく見守ってやってくださいな。
今も、書きたい衝動に駆られながら、とある短編集を読んでいます。(2019/3/12現在)
ふう。
読了。
さてと。
第135回直木賞受賞作です。
表題「風に舞いあがるビニールシート」他5作の短編が収録されています。
タイトルがツボすぎて、即購入。
実際に、風に舞いあがるビニールシートを見かけたとしたら、皆さんはどんな行動をとりますか?
ビニールシートが風に舞う。
獰猛な一陣に翻り、揉まれ、煽られ、もみくしゃになって宙を舞う。
天を塞ぐ暗雲のように無数にひしめきあっている。
雲行きは絶望的に怪しく、風は暴力的に激しい。
吹けば飛ぶようなビニールシートはどこまでも飛んでいく。
とりかえしのつかない彼方へと追いやられる前に、虚空にその身を引き裂かれないうちに、誰かが引き留めなければならない――。
このような冒頭。
私なら、みなさんなら?
見て見ぬふりをする、
ぼんやりと眺める、
なんとなく追いかけてみる、
それとも?
風に舞うビニールシートを必死に追い、必死にその手で引き留めようとするのが、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)勤務のアメリカ人、エド。
冒頭のことばはのエドの口癖です。
「誰か」に「自分」を当てはめずにはいられない、正義感の持ち主。
外資系投資銀行で働いていた里佳は、果てのない激務と上司の「日本的」な態度にとうとう嫌気がさし、UNHCRへ転職することに。
そんなこんなで、ふたりは結婚することになります。(秘技・テキトー)
ふたりの織りなす「夫婦」というカタチ。
考えさせられるものがあります。
蔓延する難民問題に身を投じ、1年のほとんどをフィールド(現地)で過ごす夫・エドへの、妻として、複雑な思いを抱える里佳。
離れないでほしい、
頑張ってほしい、
危ないところに行かないでほしい、
そばにいてほしい。
荒れた虚空に弄ばれるビニールシート、懸命に手を伸ばすエドが、いつかビニールシートもろとも遠くへ飛ばされてしまうような気がしてならない里佳。
思うのは、待つのは、いつだって退屈で、いつだって残酷だ。
「私」と仕事を天秤にかけるような人ではない、そんなエドが好きだったのに、裏腹に募っていく思い。
ふたりの在り方の「正解」とは何なのか。
夫婦の在り方の「正解」はどこに宿るのか。
『風に舞いあがるビニールシート』収録の他作品も、面白い。
うむうむ、うなってしまいます。
さすが森絵都先生、各作品どことなく雰囲気が違うように感じられますが、「はたらく人たち」「人間関係」「それぞれの価値観」への焦点が一貫されていて。
自分の価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた『風に舞いあがるビニールシート』。
ぜひ!
心の震えるツボは人それぞれ。
それでも、それぞれ形の異なるツボに無理強いしてでも、入れ込みたいと思える、そんな作品でした。
素敵な本との出会いに、アリガトウ。