やたらに、ゆとり。

しれっと徒然なるままに書く人。

読書感想文④ 有川浩『ストーリー・セラー』

 

若者ことばは面白いなあ、とつくづく思います。

かくいう私もまだまだ若者側の人間ですが。


若者ことば話者こそ、気にしていないのだろうけれど、何気ないウィット感に、とても魅力があると思うのです。

 


アホそうなことばの秘めたる表現の幅の広さ。

 

耳にして、ほう、と感心してしまったのが、

「み」。

 

 

やばみ
うれしみ
わかりみ
たべたみ

 

 

バブみ」初耳の際には、震えました。

日本語の新境地を見た気がしてならなかったのですよ。

 

 

 

 

以下、楽しい楽しい文法の授業〜〜!

学術書もなにも開かず、100%私的な言語感覚でベラベラ述べるので、矛盾点や恣意性については悪しからず。

 

「み」は、用言(つまり動詞・形容詞・形容動詞)を体言(名詞)化するという働きを持ちます。

 

体言化することによってどんなメリットがあるのか。

 

 


それこそ、表現の幅がぐっと広がるわけです。

 

お小遣いもらったんだけど、めっちゃうれしい~~!
お小遣いもらったんだけど、うれしみが深い~~!

 

 

体言化せずとも、「うれしい」の前に程度を表すことば(とても、めっちゃ、すごく等)をともなわせることによって、「私はこんなにうれしいんだよ」は、もちろん伝わります。


しかし、体言化するとなると、元・形容詞「うれしい」に、さらに形容詞「深い」を重ねることができるというわけです。

「うれしい」程度を「深い」で形容する、なんとも知的。

 

 


表現の幅、といいましたが、そのとおり「深い」以外のことばでも成り立つでしょう、その幅は、人によりけりですが。

「形容詞×形容詞」でもっと程度を詳しく、また感覚的に、さらに視覚的にも表現することができるというわけです。

 

 

うれしみが深い

うれしみしかない

うれしみを感じる

 

さらに、誰とは言いませんが、

 

うれしみが森

 

という人に出会ったことがあります。

そりゃあ、目が点、なったよね。

 

 

 

 

 

体言化できる接尾語はほかに、「さ」の含まれるのに、何故「み」かというと。

言語学的な説明が気になるのなら、こちらの記事をご覧ください。(決して面倒になったわけではない決して)

 

https://kotobaken.jp/qa/yokuaru/qa-34/

 

 

ここまで言語学者ぶったわけですが、

(いや実際、社会言語学を専攻していたもん。)


言語学的認識の上で「やばみ~!」と言っているとは、私、到底思えません。ごめんなさい。

ぶっちゃけると。

 

 

 

 

 

 


「さ」より「み」のほうが、かわいいからじゃない?
まるっこくて。

ね?

 

 

 

なーんてね。

 

 

 

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有川浩『ストーリー・セラー』。


数ある有川作品の中で、何を初手に読書感想文を書こうか、悩みに、悩みに悩みました。

 

有川先生の文章の特徴は、地の文(つまりセリフ以外)の視点が第三者である、というところ。


登場人物Aのセリフ、登場人物Bの返答、そして第三者から見た情景の地の文。


並みの物書きがこの手法をすると、読者側の視点・感情のよりどころの移動がせわしなく、注意が散漫し、

 

 

で、いま、何に注目すればいいの?

 

 

と、物語に入り込むことができなくなるのです。

 

ところがどっこい、有川先生はこの地の文への移行、視点の誘導が超絶スムーズ。
言うなれば、テレビドラマの、セリフ後、自然なカメラワークで登場人物たちの引きの図のような。(よく実写化されるのは、その効果?)

 

地の文の特徴がよく表れていて、なおかつ登場人物のことばの言い回しが、絶妙に私の「ステキ日本語フェチ」のツボを押す一冊、『ストーリー・セラー』を本日は選びました。

 

 

 

主となる登場人物は、デザイン会社に勤務する男性ひとり、と女性ひとり。

彼女のことばがなんとも、私のツボなのです。

 

食費、ではなくエンゲル係数、って言うとかね。

普段の一人称は「私」、気を許した相手には「あたし」、とかね。

 

 

 

 

さてさて、
ただの同僚であったふたりの関係が、ある出来事、ひとつのUSBメモリをきっかけに、急激に揺らぎはじめます。

 

あ、先ほど言いそびれましたが、有川先生のもう一つの特徴。恋愛描写。

「ベタ甘」と称されるほど、あっまいあっまい。

映画『植物図鑑』の原作なんて、もう、キュンなんてとうに通り越します。ギュンギュンです。

 

 

 

 

ゴホン。

『ストーリー・セラー』に戻りましょう。


2人の勤務するデザイン会社は、データの漏洩防止や盗作防止、機密を守るためにUSBメモリを用いるのは禁止されています。
しかし、ある日の終電間際、素朴で誠実な彼女のデスクの上にUSBがあったのです。
発見してしまった彼は、

 

あの子のUSB? まさか機密を漏らしたりなんて……

 

と自身の疑念を晴らすため、USBをコンピューターに。そこには。

 

 

 

 

 

 

 


いけないいけない。
本文そのまま引用レベルで語ってしまうところでした。ふう。

 

このUSB、ふたりの関係性だけを揺るがしたのならよかったのですが、そうはいかないのが有川作品。
単純な恋愛小説なわけがない。
ふたりの直面する避けようのない大きな災い。(有川さん……ドSすぎやん?と思ったのは秘密)


降りかかる困難に比例する互いの想い、

その「爆発」ともいえる「あの」表現に、私の涙腺は爆破されました。

 

 

 

 

 

ここまでがSideA。
そう、『ストーリー・セラ―』はSideA、Bの2部で構成されているのです。

SideAとBは、別の話のようで、繋がっているようで、別の話のよう。

その揺さぶりも、圧巻です。

 

 

意味深な「あの」表現、についての詳細はもちろん伏せます。

是非とも全身鳥肌になっていただきたく思います。読めばわかります。

 

 

 

 

 

それでは、本日はこの辺りで。

 

 

ブログの感想を個人的に送ってくださる方が数えられるほどですがいらっしゃいます。

こんな、単なる書く練習に。

涙出ます。

好きなことをがんばれる原動力。

 

 

うれしみ、この上なし。